本誌第11号(98年春号)にて、香港で働くフィリピン人メイドについて取り上げましたが、今回はその続編として、相変わらず逞しいメイドさん達の様子をお伝えします。

1. 東南アジアからの出稼ぎ労働者達
 先頃発表された99年度外国人居住者統計によると、最大多数を占めるフィリピン人が約14万人、続いてインドネシア人が約5万人と、東南アジア諸国が上位を占めています。(以下米国、カナダ、タイと続く)ちなみに、進出企業の撤退や規模縮小のために駐在員の帰国が相次いだ日本人居住者は、2万人弱(9位)とその数は減少傾向にあります。逆に大幅に増えたのがインドネシアの人々。こうした東南アジア出身者の大部分が、メイドとして働く女性出稼ぎ労働者達で、香港の不景気にも拘わらず、その数は増加傾向にあります。
  フィリピン インドネシア タ イ その他
1990年末 63,600 1,000 4,300 1,400
1995年末 131,200 16,400 6,700 2,700
1998年末 140,500 31,800 5,300 3,000
1999年末 143,200 41,400 5,760 3,340
※外国人メイドの登録数…香港入境管理局資料 (単位:人)


2. リトルマニラは今も健在
 メイドを雇うのは、主に欧米人や香港人の中流、上流家庭。共働きの多い香港では、重宝されています。香港人や中国人のメイドもいますが、主役はフィリピンを始めとする東南アジアの女性達。そのほとんどが住み込みで働いており、家事全般のほか子守や子供の送り迎えが主な仕事です。不景気を反映してか、法定最低賃金(月給)は、98年の3,860香港ドル(約5万1千円)から現在の3,760香港ドル(約5万円)へと低下。これは大卒の平均初任給(約1万香港ドル前後)の半分以下の水準です。しかし、住居と食事が提供される上、医療費も雇用主負担が原則となっており、メイド達は給料の大部分を国へ送金しているようです。例えば、フィリピンの大卒初任給が2,000香港ドル(約2万8千円)程度という事を考えると、彼女達の仕送りは、本国では貴重な収入となっているわけです。また、彼女達は、シャワー、トイレ付きの暗く狭い部屋(中には雇い主の子供部屋に同居する場合もあるとか)で生活していますが、休日ともなると、公園や歩行者天国にどこからともなく大勢集まり、おしゃべりやダンスをして一日を過ごしています。たまり場として最も有名なセントラル地区(当事務所の所在地)は、フィリピンの現地語が飛び交い、まるで雀の大群がいるかのような騒ぎとなるのです。

3. トラブル
 香港人とメイドとの間で起きた虐待事件が紙面をにぎわすことがあります。雇い主である香港人が、誤ってアイロンで服を焦がしたメイドを虐待し、その結果香港人に懲役刑が課せられたケースや、逆にメイドがストレスから雇い主の子供を虐待した事件など、歪んだ人間関係が露呈。雇い主としては、家事から解放される反面、外国人メイドとの信頼関係を築くという心の問題を解決しなければならないのです。

4. 文化の違い
植民地時代の名残として香港には階級社会が根付いています。当然のことかもしれませんが、「雇い主」である香港人はメイドに対し強い態度で接しています。小さな子供にしても、メイドに鞄を持たせて、スクールバスを待っています。こんなことでは人に対する思いやりに欠けてしまう子が育ってしまうなど教育上良くないと思います。一方で、住み込みのメイドを雇っている日本人駐在員は少数派。日本では、家庭でメイドを雇うことなどとても考えられないうえ、他人との同居など受け入れがたい面もあるからです。もっとも、パートタイムで契約し、掃除だけを任せるといった日本人は割と多いようです。その場合でも、「メイドが来る前に軽く掃除をする人」「メイドにお茶を出すべきか悩む人」の話を聞いたことがあります。文化や習慣の違いはいかんともし難いようです。


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