中国には、約300もの地方劇があるといわれ、各々の独特の手法を取り混ぜ集大成させたものが、200年程前に北京に根づき、次第に「京劇」と呼ばれるようになりました。その後、宮廷が京劇を重んじたため、全国規模の広がりを見せました。そして、20世紀に入ると女形の名優として有名な「梅蘭芳」などの出現により海外にも知られるようになったのです。
 ストーリーは、一般的に「三国志」、「水滸伝」、「孫悟空」等の日本でもお馴染みの古典を劇に仕立てています。また、現在は国が京劇に力を入れていることもあり、近代の物語を主体として服装や演奏を西洋風にアレンジした「現代京劇」をその時々により、新作として発表しています。
 それらは、素人にも楽しめる舞台構成となっており、時には雑技を取り入れたり、また、時には唄を中心に長い場合は約3時間もかけて熱演されます。 さて、京劇とは俗に、唄(うた)、故(しぐさ)、念(せりふ)、打(たちまわり)の四要素から成り立っており、日本の歌舞伎同様、様式美を追求しているといわれています。また、役柄についても大きく男性役の「生」、女性役の「旦」、剛直・粗暴な役の「浄」、道化役の「丑」の四種類に分かれており、さらに、年齢、性格、身分、主・脇役などで細かく分類されています。

 また、京劇といえば特有の派手な衣装のほか、独特の化粧である「隈取り」が大変印象的です。この隈取りの由来は、古くは唐時代の「くぐつ」と呼ばれる人形に化粧を施したことから生まれた芸術的なメイクとされており、京劇以外にも多くの地方劇で使用されています。なお、最古の隈取りと思われる仮面は、何と日本の宮内庁にある唐時代のものだそうです。
 中国国内には、百以上のプロの京劇団がありますが、その中でも一流と呼ばれるのは数えるほどしかなく、「大連京劇団」もそのひとつに数えられます。

 1949年に設立され、中国東北地方では最も歴史の長いこの京劇団は、現在約130名の団員が在籍し、国内各地の公演のほか、年3回程度の海外公演も行い好評を博しています。かれらのホームグラウンドである大連市内の「東本願寺麒麟舞台」は、約百名の観客を収容できる劇場であり、月に2回程度公演が行われます。現在では、地元の人のほか外国人の団体客で常に満席であり、良い席を確保するために、開演の随分前から並んで切符を買う姿も見受けられます。
 目の覚めるような銅鑼の音と、軽快な拍子木のリズムに乗って幕が開くと、独特の京劇メロディーをバックに、鮮やかな照明や凝った装置の下で熱演が繰り広げられます。

 華やかな舞台の裏で、団員たちは毎週月曜日から金曜日の朝8時から夕方4時頃まで厳しい練習を積んでいます。稽古の方法も強烈で、軽業中心の役者には、床にガラスの破片を撒いた状態で長時間逆立ちをしたりする訓練もあるようです。また、化粧が肌に合わずかぶれたりする人もいて、人々が楽しく観劇する裏には涙ぐましい努力が隠されているのです。
 しかし、その成果により、同劇団は現在までに、現在国家一級(ギャラのランク)俳優四名、二級演出家・俳優・演奏家十名を輩出しており、今後も中国京劇界の牽引役になっていくものと思われます。



▲化粧前
 
▲化粧後


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