香港といえば、高層ビル街とかいろいろな店が路地にひしめく街といったイメージが先行します。ところが、実は手つかずの自然がすぐそこにあるのもまた香港の魅力なのです。
 大小230以上の島からなる香港は、山と海の宝庫です。この豊富な自然を楽しむ一番手っ取り早い方法が山を歩くことです。
香港にはよく整備された遊歩道、「トレール(道)」が各地にあります。例えば、夜景で有名なビクトリア・ピークには、1985年に完成した香港で3番目に古い「ホンコントレール」の出発点があり、香港島を西から東に横断し、総距離50キロ、標準15時間のハイキングコースとなっています。ケーブル・カーの山頂駅近くが出発点で、しばらく行くと林に囲まれ、小鳥のさえずりとさわやかな風が楽しめます。時折、道の周囲を覆った木々がとぎれ、眼下に高層ビル群とビクトリア湾、九龍半島の街や山並みが一望できます。  香港では、都会の中での生活から抜け出して、山歩きを楽しむ人が意外と多いのです。山歩き仲間たちは週末になると、香港島だけでなく、九龍半島の山々を歩きます。そして、彼らの究極の目的は、香港を代表するスポーツ・イベントである「トレール・ウォーク」への挑戦です。

 「トレール・ウォーク」とは、香港が世界に誇るウォーク・ラリーで、毎年11月に開催されます。九龍半島の東西を連なる山々を越えながら、全行程100キロを4人一組で歩き、48時間以内に4人揃ってゴールしなければならないという、体力と気力そしてチームワークが要求される過酷なレースです。しかも完歩したチームには最低5千香港ドル(約8万円)以上の寄付金を納める義務があるという、チャリティー・イベントでもあります。もともとは香港に駐留していた英国軍の傭兵であるグルカ(注1)兵が耐久訓練と母国ネパールのための基金を集めようとの趣旨で1981年に始めたものです。当初はグルカ兵のみの参加でしたが、86年から一般市民も参加し、今では毎年約2千8百人、7百チームが参加しています。ちなみにこれまでの最高記録はグルカ>兵チームの13時間18分と驚異的ですし、参加者の平均時間が30時間(1日以上寝ずに歩き続けるということ)というからこれも凄いものです。
 香港の街中はどこを歩いても、人、車、そして高いビルの圧迫感。そんな喧燥を逃がれ、きれいな空気と景色を存分に楽しむ山歩きは、香港に住む者にとって貴重なスポーツです。しかも、そんな自然が市街地からすぐそこにあるのです。まるで新宿高層ビル街のすぐ裏に九重の山々があるようなものです。100キロを寝ずに歩くのは生半可なことではありませんが、週末を利用したのんびりウォークなら誰でも参加できそうです。

(注1):
ネパール中央部山岳地帯出身の傭兵。勇敢なことで有名。


遊歩道から眺める高層ビル群


こんな自然も香港の魅力の一つ


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